三大感染症「HIV/AIDS,結核,マラリア」が、なぜアフリカ(ナミビア)を苦しめるのか。~天然痘の根絶と比較して~
HIV/エイズ、結核、マラリアは、病原体も感染経路も異なるが、三大感染症として世界的規模の対策が行われている。改善傾向はみられるものの、まだ世界にはこの感染症で苦しんでいる患者が数多くいる。なぜこれほどまでに三大感染症の対策に苦慮しているのだろうか。
三大感染症の世界的規模の対策が行われているが、改善傾向はみられるものの、まだ世界にはこの感染症で苦しんでいる患者が数多くいる。しかし、天然痘においては、1977年にソマリアにおいて、自然発生による患者が最後として、1980年にWHOによって天然痘根絶の宣言があった。
天然痘は、エジプト王朝のミイラが天然痘によって亡くなったことが推測され、何千年も前から存在していたとされている。日本においては、渡来人が日本に渡ってきたことによって広がり、奈良時代前後においては、流行していたことが続日本紀によってわかっている。疫病流行は697年~721年、732年~741年、757年~791年の三つの時期に多く流行しており1)、奈良の大仏の建立についても天然痘の流行から、つくられたともいわれる。
1700年代後半、エドワード・ジェンナーが乳絞りの女性には、牛痘のかかった跡が残っていたにもかかわらず、天然痘にはかからないということを発見した。これは、天然痘ウイルスと近縁関係の牛痘ウイルスの感染によって、天然痘ウイルスに対しても免疫が獲得される反応である。
根絶できる感染症には、条件がある2)。(1)感染すれば必ず診断できる。それも肉眼的に明瞭な症状が必ず現れる。(2)その感染症を引き起こす病原体の自然宿主はヒトに限られること。狂犬病のように、多くの動物が感染する感染症においては、根絶は困難である。(3)効果的で良いワクチンが存在する。の3点である。天然痘はこの条件を満たしおり、アメリカが主導となって、全員の種痘を目指した。しかし、戸籍や住民票の無い地域や、輸送体制、実施資金などが不十分であったため、WHOは予算を組み、感染者に対して、懸賞金を懸け、患者を見つけ、その周りでワクチン接種をして感染源を断つという手法を取ったことで、1977年10月を最後に天然痘の患者はいなくなった。
上記の天然痘の歴史をたどっていくと、根絶できる感染症の3つの条件が三大感染症(HIV/AIDS、結核、マラリア)には、当てはまらない。まず、上記の条件が当てはめると、HIV/AIDSについては、(1)肉眼的に明瞭な症状が必ず現れるということはなく、潜伏期間を経て、AIDS発症が起こる点。(3)効果的で良いワクチンは存在しないという点。現在の治療においては、HIVの増殖を抑え、免疫力を維持することが可能であり、AIDSを発症しても薬を飲み続けることで、通常の生活は送ることができるが、根治をすることはできないという点。
次に、結核については、(1)初期症状は風邪に似ており、明瞭な症状とは言い難いという点。また、(3)BCGというワクチンは存在するが、BCG接種を受けた人でも5~10%の人が発症する点。また、感染してから2年ほどの間に発病することが多いとされており、根絶するには、課題がある。また、どのような理由で結核菌が増え始めて発病するのかが解明されていない。
最後にマラリアは、ハマダラ蚊によって媒介するが、(1)症状が風邪、インフルエンザによく似ており、症状だけでは判断しにくいという点。(2)感染源が蚊であるという感染症であるという点。(3)効果的なワクチンは存在しないという点。マラリア予防薬は販売されているが、飲み続けなければならないことや、処方箋が必要であること、高価であり所得が低い人々にとっては手の出しにくいものであると考える。これらの点から、天然痘と比較して三大感染症が根絶できない理由に挙げられる。
ここからは、様々な背景や文化的なことや医療などから考えていきたい。HIV/AIDSに関して述べると、宗教的な問題で、コンドームをすることがタブーとなっていること慣習がある地域があり、根本的に文化的な問題がある場合が考えられる。医療的な問題としては、AIDS発症を遅らせる薬があったとしても、貧しい人にはいきわたらないということや、輸送体制が整っておらずいきわたらないということも考えられる。行動変容として、経済的に貧しい人たちは子どもたちに学校へ行くことよりも、子どものうちから働いた方がよいと考える親がおり、教育が受けられない子どもが成長し、知識がないまま性交渉に至ってしまうということも考えられる。
特にサハラ砂漠以南のアフリカ南部地域において蔓延している。WHOによれば、コートジボワール、コンゴ、ザンビアでは10代の妊娠率は10%を超えている3)。この要因として、経済的に貧しい女性が、経済的に豊かな男性の下へ近付いていき、その男性の子どもをつくることで、妊娠が悪いことではないと考え、豊かな生活になる方を選んでいるという。このような経済的な問題が罹患率を上げている。貧しい女性が富を得たいという欲求から、コンドームをすることなく感染に至る行動をとってしまうことや、正しい知識を得る機会がなく、誤った認識から、感染してしまうということがある。子どもには必ず教育機会を与え、性教育や感染症に対する正しい知識をもつことが大切になってくる。
私は、アフリカ南部地域のナミビア共和国にて活動していたが、小学校から高校まで「LIFE SKILLS」という教科があり、妊娠やHIV/AIDSの内容を多く取り扱って教育が行われている。また、男性の割礼を学校が病院で行うように推奨しており、割礼を終えた生徒たちをチェックしている。男性のペニスの包皮を切る割礼をすることで、約60%の予防ができるという。それでもなお、ナミビア共和国では、HIV/AIDSが最も高い死亡率を占めている。人口230万人と少ない国であるが、毎年約3900人が亡くなっている。
私の住んでいたOmusati州では、HIV/AIDSカウンセリングと検査プログラムがあり、この統計によると、20万人を超える住民のうち、2015年4月から9月までの6ヶ月間に検査を受けたものは2万人しかいない4)という。HIV検査を受け、陽性だった場合に一生続くHIV治療に対する恐怖を抱くという。また、副作用があるのではないかと誤解している人や、パートナーに打ち明けなければならないこと、差別や偏見を受けるかもしれないと心配している人もいるという。このように検査をすることを恐れ、罹患していることさえも知らぬまま、性交渉におよび感染が広がっていってしまう。
ナミビア共和国では、学校での HIV 検査の義務化が効果的な施策となる可能性があると記事にもなっている5)。政策の問題になってくるが、検査を義務化することで早期の治療が可能である。その他に問題となっているのは、多くの患者がいるため、すべての患者を一日で観ることができないという点である。私が見学した公共の病院は、9時から17時までの診療時間であるが、17時になった時点ですぐに閉まってしまうため、午後以降に診療所に入った患者のほとんどは、診察してもらうことができない。診察できなかった場合には、次の日にまた来なくてはならない。こういった公共の病院や診療所の問題を抱えている。また、公共の病院は国からの保険があるため、約10ドル(約100円程度)の料金で診てもらうことができるが、私立の病院では先進国並みの医療が受けられるが、一切保険が効かず、高額な診療代となってしまう。
こうした問題は、歴史的な背景も抱えており、アパルトヘイト政策によって黒人との住み分けを行い、負の貧困がいまだに続いている。私立の病院においてはほとんどが白人の院長で、利用者も白人が大多数を占めている。そうしたことから、貧困層で生活をしている人々は、罹患していても医者には行かず、心霊治療師の祈祷に頼ることもあり、正しい知識を広める必要がある。しかしながら、正しい教育をしていても制度的な問題や歴史的な背景があり、苦慮していると考える。
HIV/AIDSに関連して、結核との合併症が大きな問題となっている。HIV感染者はHIVに未感染の人より30倍から50倍も結核を発病しやすいとされている。6)もともと結核菌に感染しても病気を発病するのは、10%程度と言われているが、体の抵抗力が落ちると結核は発症しやすくなる。特に、高齢者や、糖尿病、腎不全などの薬を使っている患者は、抵抗力が落ちているため、結核を発病しやすい。HIV/AIDSと同様に、結核においてもサハラ砂漠以南のアフリカで現在起こっている。実際に私が見学したナミビア共和国の診療所においては、HIV検査所のすぐ隣には、TB(Tuberculosis)と書かれた診療所が設けられていた。
結核で大きな問題となっているのが、薬剤耐性結核の登場である。ほとんどの場合、結核は治療によって完治が可能であるが、標準的な結核治療でも6ヶ月間、治療薬を飲み続けなければならない。こうしたことや副作用が原因で治療をやめてしまう人がいる。この治療の中断により、結核菌は耐性を持つようになり薬剤耐性菌が生まれる。
こうした薬剤耐性結核の治療は、特に深刻であり、治療に成功した患者はわずか30%である。7)薬剤耐性結核が広がれば、深刻な問題となる。世界全体で薬剤耐性に起因する死亡者数の1/3を占めているという。また、薬剤耐性結核の治療は、通常の結核治療よりも費用がかかり、治療期間も長くなる。こうしたことは、治療をやめずにきちんと薬を飲み続けることや、病院の管理下におき適切な治療をする必要があると考える。
マラリアについて、私はマラリア発生地域におり、マラリア検査簡易キッドを常備しており、薬も飲んでいた。しかし、飲み続けている現地の人はほとんどいない。また、はじめに述べたように、処方箋が必要な薬であり薬価も高い。
マラリア流行地域でない場所においても、飛行機によって蚊が持ち込まれてしまい、感染が広まってしまうというリスクがある。これを「空港マラリア」と言い、空港近くの住民を刺して、感染してしまうという。また、「ウイルスや細菌といった病原体が症状の表れない潜伏期間中に空港の検疫を通過し、国内に持ち込まれてしまう。これが「輸入マラリア」と呼ばれるもので、各国は対策に苦慮している。」8)とあり、症状がすぐに出ないということも大きな問題でもある。
マラリアの種類には、4種類あり、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵型マラリア原虫があり、複数の感染をするというリスクもある。特に、熱帯熱マラリアは、重症化する恐れがあり、早めの診断が必要だが、潜伏期間が長いとすぐに判断できないということも考えられる。蚊の侵入を防ぐために、水際対策をとして、航空機内に蚊がいないかどうかの検査や、空港内で蚊を光で誘い込んだり、側溝内のぼうふらの生息を確認したりする調査を実施もしているという。
流行地域での対策として、まずは現地の人への正しい知識を広める(マラリアの種類や治療法、予防薬など)ということや、殺虫剤入りの蚊帳を配布するなどして、蚊帳の重要性を喚起していく必要性がある。従来の蚊帳では、暑く寝られないという理由で利用されないと聞くが、最近の蚊帳は通気性も優れ、殺虫剤も含まれている。このようなものがあるということを周知するということ、配布するということが必要ではないかと思う。
最後に、はじめに述べた天然痘においても、「すぐに根絶ができたわけではない。当初、1975 年に根絶に至ったと考えられたが、ソマリアは、当時エチオピアとの戦争状態にあり、根絶計画が 2 年遅れている。戦争は、感染症対策をすることすらできず、感染症を増やしてしまう。平和がなければ、感染症対策はできないという教訓がある。」1)とあり、現在の世界情勢においてもテロや内戦が続いている地域があり、こういった内戦、紛争、テロが感染症の対策を遅らせていることも考えられる。平和であることが前提として対策を講じることができる。
1)奈良時代前後における疫病流行の研究
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110007643142.pdf?id=ART0009462161
2)「天然痘の根絶-人類初の勝利」
http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM0911_02.pdf
3)『貧乏人の経済学』
4)「Most people in Omusati refuse to get tested for HIV」
https://www.newera.com.na/2015/12/14/people-omusati-refuse-tested-hiv/
5)「Daughton Suggests Mandatory HIV Testing for Learners」
https://allafrica.com/stories/201712220547.html
http://www.jata.or.jp/rit/rj/0112osuga.html
7)薬剤耐性結核
8)空港マラリア:多くの国に持ち込まれる危険性を専門家が指摘
https://idsc.niid.go.jp/iasr/21/248/fr2487.html