ナミビア 〜Nombili のんびり〜

タイトルの「Nombili のんびり」とは私が活動している 地域のオシワンボ語の挨拶で「平穏」「穏やかな」という意味です。世界が平穏であってほしいと願いこのタイトルにしました。青年海外協力隊として活動しながら、大学院にて開発学についても学んでいます。様々な角度から綴っていきたいです。

ナミビアの教育の潮流、バンツー教育法と「基礎教育教員養成課程」(BETD)について

ナミビアの教育の潮流

2015年9月の国連サミットで採択された、2016-2030年までの国際目標である「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」(以下SDGs)の目標4において、「すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」(UN外務省訳,[2015:14])としており、この目標の4.1では、「2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする」(UN外務省訳,[2015:17])とある。ナミビアの教育省は、このSDGsの採択に合わせて基礎教育のカリキュラム改定について、SDGsの方針に同調していくことが述べられ、「基礎教育を通じて、学習者は知識の使用、獲得、構築、評価、変換を学ぶことにより、社会参加に必要な能力、態度、価値を開発する。」(NIED:[2015])(筆者訳)とある。

 

初代大統領Sam Njoma[1]が2004年に国の基本方針を7章にまとめた要綱「Vision 2030」(Gov.Namibia:[2004])[2]の目標「ナミビアは、すべての市民が最大限の可能性を実現できる、公正で、性別に敏感で、思いやりのある献身的な国家である。ナミビア人は調和して共存し、共通の価値観と願望を共有している。障害のある人々は、社会の主流にうまく統合される。」という方向性にも沿っていることが述べられている。なお、独立の際に国を豊かにしようとするため、教育に力を入れようとした背景があり、ナミビアの教員の給料は他の職種に比べると良い。「Teaching / Education Average Salaries in Namibia 2019」によると、ナミビアの平均給料は、N$17,588に対して、教員の給料の平均は、N$18,322と4%高いという結果を示している。

 

南アフリカによるアパルトヘイト政策のもとで1953年「バンツー教育法」が制定され、ナミビアでは、1962年に導入された。「白人の子どもの教育は黒人子どもの教育の10倍の費用を費やし、人種差別的教育が行われていた。」(村田[1998:111])

人種差別的な教育法で、「労働力としてコミュニケーションがとれる程度の言語能力、白人に対する行儀作法」(千葉[2003:132])を教えるのみで、黒人を労働力に仕上げることが目的の奴隷再生産の制度となっていた。また、教員に対しても「人間的に成長していこう、あるいは社会・経済・文化の創造者になろうという姿勢を育成しないもの」(千葉[2003:137])として、子どもだけでなく、教員の教育についても徹底していた。「学校における学習科目は読み書き、歌唱、工芸、算数基礎、環境学習、衛星、体育、宗教教義といったものに限定され、理科と数学は教えられなかった。」(千葉[2003:134])近代的な産業や工業といった経済的に発展するための基礎科目である理科と数学の2科目は、享受されなかった。

40代以上の黒人教員は、このバンツー教育を受けてきたと思われる。筆者が学校巡回をしていると、板書をして書き写すだけ、威圧的な授業をしているのを見かける。また、図形をうまく描くことができないことやハサミを使って直線に切ることができない教員がいた。バンツー教育の弊害が見受けられる。一方、若い教員の20代30代の教員は、授業や教材を工夫や努力をしている印象である。すべての教員に当てはまるわけではないが、少なくともこうした歴史的な背景が影響している部分があると考える。

 

1990年独立前後の時期、教員養成校で実施されていたのは、国民教育資格(the National Education  Certificate: NECと国民高等教育資格(the National Higher Education Certificate: NHEC)の2つの課程があったが、「学校での講義に大きく偏り、知識偏重、教員中心の権威主義的な暗記、繰り返し中心の受動的な教授法を踏襲し、資格試験に合格するための学習であった。」(千葉[2003:137])とあり、バンツー教育の流れをそのまま受け継がれた教員養成であったため、資格を取得していても育成という観点で機能していなかった。

 

その後、1986年から1992年まで教員養成課程・総合教員養成プログラム(Integrated Teacher Training Programme :ITTP)という小学校の教師向けの3年間のプログラムが、SWAPOによって組織された。スウェーデンの教育者やSwedish International Development Cooperation Agency: SIDAによって支援され、教育の民主化ナミビア化を進め、質の高い教員を養成することを目的に実施された。ITTPの基本原則には、1. Learner-centeredness Education and Democracy: 学習者主体の学習と民主主義、2.Integration and Meaning: 統合と意義づけ、3.Production: 生産すること、4.Education Reflection and Critical Constructivism: 教育的な振り返りと建設的な批判がある。(千葉[2003:144])ITTPは16コースで構成され、一般的な教授法と教育分野を扱った。カリキュラム全体を支えるのは、すべての科目が統合され、学校基礎の実践となっており、コースの時間の50%が割り当てられた。学生は他のクラスの学生と連携して作業しチームティーチングの取り組みなどがなされた。

 

1993年から2012年まで施行された基礎教育教員養成課程(BETD: the Basic Education Teacher Diploma)について述べる。「学習者主体の授業」を進めており、カリキュラムのアウトラインの目的は、体系化すること、推奨される教育と学習のアプローチ、および評定・評価である。

BETDの根本的な原理は、「民主的教育学」、「理解を通して学ぶ」、「学習者中心の教育」、「全体論的視点」、「学習者参加」などの概念がある。

学校とコミュニティの関係を強調しており、BETDは「専門職としての研修、専門性を高める最初のステップ」としてみなされ、主な目的は、基礎教育の専門性と技能を育成し、教員がナミビアの教育改善を促進できるようにすることとしている。教師は、「文化的価値と信念の理解と尊重」、「社会的責任」、「ジェンダー意識と公平性」、「環境意識」など、生涯の社会一般的な目的に向けて働きかけることを挙げている。思慮深く創造的な態度、分析的・批判的思考、共有された有効なプロセスとして相互的に理解を深め、個々の学習者のニーズと能力を満たすことができるようにする。

 

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BETDの専攻の構成

出典: LARS DAHLSTROM (1995), “Teacher Education for Independent Namibia: from the liberation struggle to a national agenda”

 

BETDは3年間のプログラムで、1年目に共通基礎科目を履修し、幼児教育、幅広い教育課程の研究、オリエンテーション、教育理論と実践などを学習する。学年の段階に応じて、科目分野の専門分野で構成され、2年目に小学1~7年生専攻または、4~10年生専攻の履修の選択ができるように編成されている。農村部や農場の学校勤務[3]に備えて低学年から高学年への移行がスムーズになるように学習できるようになっている。3年目にはさらに細分化され、1~7年生専攻の学生が1~4年生専攻と5~7年生専攻に、4~10年生専攻が、5~7年生専攻と8~10年生専攻に分かれ、より専門的に履修する仕組みになっている。

教育実習は、1年目は3学期中の3週間、2年目は3学期中の6週間、3年目は2学期すべての13週間であり、現場で行われる教育実習を重視している。BETDは、教育専門職の教育学的および社会的側面をより重視しており、NECやNHECといった以前のプログラムより実践的な教育を重視している。教員教育における学習者中心の、思慮深く探究的で、生産的な方法を強調している。価値と地位のある証書を与えることで、さらなる研究と専門化の可能性を開き、基礎教育の新しい哲学と方針を提唱している。

筆者がTeacher Education for Independent Namibia: from the liberation struggle to a national agendaを翻訳し要約した。

 

[1] 1990年のナミビアの独立時から2005年まで大統領を務めた。

[2] 将来展望、生活の質、持続可能な資源、環境など多岐にわたって全247ページに示されている。

[3] 農村部などでは、Combined schoolという小学校から中学校が併設された学校が多い。 

 

まとめると・・・

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参考文献

・ 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』(外務省仮訳)

United Nations (2015) “Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development 17”

・ National Institute for Educational Development (NIED), MINISTRY OF EDUCATION, ARTS AND CULTURE (2015): “THE STATEMENT ABOUT THE CURRICULUM REFORM FOR BASIC EDUCATION”

・ Government of the Republic of Namibia (2004): “Namibia Vision 2030, Policy Framework for Long-Term National Development”

・ SalaryExploler Teaching / Education Average Salaries in Namibia 2019 http://www.salaryexplorer.com/salary-survey.php?loc=149&loctype=1&job=50&jobtype=1#disabled(2019年11月26日アクセス)

・ 村田翼夫(1998)「南アフリカ共和国における教育の現状と教育協力・援助の必要性」広島大学 教育開発国際協力研究センター「国際教育協力論集」第1巻第1号pp111~124

 

 

修士論文からの抜粋になります。文献やブログ等に引用する際は、ご連絡ください。

 

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